トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

160808
 自由を標榜する国・アメリカでも1950~1970年代の米ソ冷戦の時代において共産主義者を弾圧しようとする動き、いわゆる「赤狩り」が猛威をふるったそうだ。最近観た映画「トランボ ハリウッドで最も嫌われた男」に詳しく描かれている。
 ダルトン・トランボという脚本家をご存知だろうか?かの名作「ローマの休日」を書いたのが何を隠そう彼なのだが、「ダルトン・トランボ」という本名を伏せてまったく別人の名前でアカデミー脚本賞を受賞したことも今でこそ知られている事実、その当時は「アカ」のレッテルを貼られた者は表舞台に立つことなど許されず、徹底的に仕事を干され続けた。
 聴聞会で吊し上げにされたトランボは最後まで口を割らなかったことで侮辱罪として懲役刑をうける。本作によればハリウッドの大スター、ジョン・ウェイン、ドナルド・レーガン、そして反ユダヤ・ゴシップ記事コラムニスト、ヘッダ・ホッパーなどが右翼思想側でトランボの敵役として描かれているのがおもしろい。
 出所したトランボに脚本家としての仕事はない。家族を抱えて路頭に迷うわけに行かない彼はゲテモノB級映画の会社に自分を売り込みに行く。B級映画会社の社長(ジョン・グッドマンが演じる彼が最高にはじけていて愉快だ)によって才能を買われた彼は、偽名で発表することを条件に仕事を振ってもらえるようになるのだ。

 この辺から映画は面白く転換していく。
 トランボは自宅に電話をたくさん繋げて、家族の協力を得て、思春期の子どもたちに速記術をマスターさせ正書を手伝わせたり、偽名で書いたゲラを届けさせたりする。さながら家族経営で麻薬の密売をしているかのように、こっそりとしかし着実に仕事を増やしていった。優れた仕事はまた別の仕事を呼んでしまうらしい。いくら偽名で書いていても、それがトランボの仕事だとやがて内々に知れ渡る。次第にハリウッドの名だたる監督やプロデューサーも彼の仕事を無視できないまでになってくる。

 僕はこの映画を観るまではダルトン・トランボのことも赤狩りのことも知らなかった。政治的なことは何が正しいのか判然としないのだが、とにかく脇目もふらずタイプライターを打ち込んでいるトランボの姿に胸を打たれた。どんなに酷い仕打ちを受けても、トランボはそれをユーモアに変換して、その仕返しは暴力ではなくペンの力で、おもしろい物語を作るという自分の仕事をやりつづけることで復讐したのかもしれない。まさに真の職人でアーティスト、そして何より良きお父さんで不屈の映画人だと感じた。