2018

レネットとミラベル四つの冒険

180709
 エリック・ロメールの「レネットとミラベル四つの冒険」が早稲田松竹でやるというので出かけてみた。

 古い映画なのでスタンダードサイズ(4:3)でフランス語モノラルという視聴環境なんだけど。ちょっと昔のフィルムのザラつき感も良くて、これがすごく落ちつくんだな。

 映画のはじまりで田舎道をこちらに向かって自転車でやって来るミラベル。朴訥なフランスの田舎道に黒いサロペットに真っ赤なカーディガン肩掛けした姿はたまらなくキュートで、ロメールの美的感覚が良く出ている。偶然道で出会った少女レネットに自転車をリペアしてもらったことがきっかけでレネットとミラベルは仲良くなります。
都会的でクールな考え方の少女と、方や田舎育ちで垢抜けないけど真っ直ぐな少女。正反対の二人がフランスの田舎やパリでともに過ごす物語。
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万引き家族

180610
 話題の映画「万引き家族」の初日を見にtohoシネマズ新宿へ行った。

 この映画を見て、なぜか日本の古代人のことが頭に浮かんできた。家族というコミュニティで力を合わせ、狩猟採集をやっていた人たちだ。
 歴史の教科書で学んだとおりなら、縄文時代の終わり頃に日本列島に稲作が伝わると同時にやがて権力や法律もできてきたわけだから、もう古き良き時代の家族はますます端に追いやらて立ち行かなくなってきたのだろう。
 「万引き家族」もまた現代社会のシステムから排除されてしまった。日本列島原住民の成れの果てだといったら極論だろうか。
 僕は万引きなどの軽犯罪に目くじらを立てるよりも、なぜ彼らがそのような状況に追い込まれるのかという根本的な原因を考える方が賢明だろうと思う。しかし何よりも、彼らが子どもに対して滅法優しく、それに対して現代社会システムが子どもを置き去りにしているように描かれていることに考えさせれた。
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フロリダ・プロジェクト

180606
 傑作の呼び声も高い映画「フロリダ・プロジェクト」を見に新宿のバルト9へ出かけた。
フロリダの眩しい空の下で駆け回る子どもたちの躍動に感動させられると思いきや、しばらくして、憂鬱な気持ちが襲ってきた。 もっと読む…

レディ・バード

180602
 脚本家で女優としても活躍するクレタ・ガーウィックが自分自身の高校時代のことを映画化した作品「レディ・バード」を日比谷シャンテに見に行った。

 冒頭こんな言葉から始まる。
 Anybody who talks about California hedonism has never spent a Christmas in Sacramento. 
(カリフォルニアの快楽主義について語る人は誰も皆サクラメントのクリスマスを経験したことがない。) もっと読む…

犬ヶ島

180529
 TOHOシネマズ六本木でウェス・アンダーソン監督のストップモーションアニメ作品「犬ヶ島」を初日に見に出かけた。

 映像・グラフィックが愛くるしくて夢中にさせる。
犬の表情や動きのなんと素晴らしいことだろう。一見しただけでよく研究されていることがわかる。
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レディ・プレイヤー1

180528
 任天堂のファミリーコンピューターが我が家にやってきたのは僕が小学校2年生のときだった。ソフトは初期の「テニス」や「ゴルフ」など非常にシンプルなものから始まり、「ゼビウス」「マリオ」にも夢中になった。そういえば誕生日のプレゼントには「スパルタンX」を買ってもらった(おもしろかった)。ちょうど同時期に映画では「E.T.」とか「グーニーズ」が流行っていて、子どもたちだけでなく大人まで夢を膨らませていた。 もっと読む…

「三度目の殺人」「彼女がその名を知らない鳥たち」

180430
  この二作品を観て、ここに出ている役者というのは芝居で食べているだけあってどの俳優も皆うまいもんだなあとあたりまえの感想を抱いて早稲田松竹の劇場を後にした。

 「三度目」では咲江を演じていた広瀬すずが意外に存在感があって、もしかしたらこの娘が事件の黒幕なのかもしれないと、うつろな表情にゾクッとしてしまった。真実というのは一体どこにあるのだろうか。殺人事件の真相は容疑者、被害者の家族、弁護士の三者の立場によってまったく異なったものになってゆく。最後の結末は不気味な容疑者三隅の狙い通りになったようにも見えるが違うようにも見える。落とし所をはっきりさせたい人にはこの映画は歯がゆいだろう。福山雅治と広瀬すずと役所広司が雪の中で遊ぶシーンが好きだ。
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代々木上原の幸福書房

180215
 代々木上原駅前の「幸福書房」は岩楯幸雄さんが家族経営で営む街の小さな本屋さんだ。
 地元の人には親しみをこめて「幸福さん」と呼ばれている。
 本が好きな僕は10年前にこの街へ越してきたときに自分の街に馴染みの本屋があることがうれしくて、以来仕事帰りや散歩のついでによく立ち寄っている。小さな店舗でもキラリと光る品揃の書棚が素晴らしいのだ。その書棚はただマーケティングを意識して並べただけのものとはぜんぜん違って、限りあるスペースのなかで地元のお客様が好みそうな本・紹介したい本を岩楯さんが一冊づつ仕入れてきて並べた意志を持った棚だ。
 おかしな話だ。本なんてどこで買っても一緒のはず。だけど同じ買うなら信頼できる人から買いたいという心理がある。対価を払って物を買う行為のなかに、商品以外にプラス何かを得ているのだろうか。
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スリー・ビルボード

180222
 アメリカ映画にはいわゆる「ホワイト・トラッシュもの」というジャンルがあるようだ。ニューヨークやロスのように世界に開かれた大都会とは別次元の村社会が合衆国の中にはあって、南部や中西部ののどかな田舎街が舞台だったりして、美しい風景とは逆に、良くも悪くも独特のしきたりに支配されていたりする。
 映画「スリー・ビルボード」はアメリカのミズーリ州エビングという架空の街が舞台。ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)という肝っ玉母さんが主人公だ。半年前に彼女は何者かに娘を酷い仕打ちで殺害された。その悲しみや憎しみは決して癒えることはない。いつまでたっても解決しない事件に街の警察が無力であることに憤り、田舎道沿いの3つの巨大な広告看板を1年契約で買い取ってある作戦に出る。すなわち看板に
 RAPED WHILE DYING(娘はレイプされて殺された)
 AND STILL NO ARRESTS?(なにの犯人はまだ捕まってないの?)
 HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?(何やってるのウィロビー警察署長?)
このようにデカデカと掲げて地元の警察署長を名指しで攻撃して注目を換気しようとしたのだ。
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