クレールの膝

170612
 有楽町の角川シネマでお待ちかねのエリック・ロメール監督の特集上映をやっていたので表題作を観てきた。
 物語の舞台はスイス国境に近いフランスのアヌシー湖畔。
 男は市街地の運河にボートを走らせ、川幅が徐々に広がりアルプス山系も望める湖畔の別荘へバカンスにやって来る。
 それにしてもバカンスという概念が日本人には身についていないから、フランス人を見ていると生活感というものが感じられない。別荘でテニスをしたり、木陰で読書をしたりするのがいちいちオシャレに見えて、この人達は愛だの恋だの言っていて大丈夫なのか、ちゃんと仕事はしているのだろうかと心配になる。とはいうものの、自由を謳歌する人間本来の姿を見せつけられると、ああコレがフランスの味なのかと、和食に慣れた舌にはカルチャーショックがあまりにも大きい。
 知人の娘で、まだ十代の少女クレールのピーンと突き出た膝小僧があまりにも美しいので、なんとしてでもこの膝に触れてみたい、それも無理やり触るのではなく自然の成り行きダンディーに触れてみたいという主人公のジェロームはもちろんエリック・ロメールの分身だ。かつては浮き名を流した口だろう。ところが、クレールはおじさんのジェロームにはまったく感心を示さない。おじさんもプレイボーイの名折れだと言わんばかりにムキになる。相当に変態じみた内容には違いないが、アヌシー湖畔の美しい風景と、フランスのエスプリを堪能して、鑑賞後には格調高い芸術に触れたような気がしてしまう。
 エリック・ロメール監督は一貫して女と男をテーマに映画を撮り続けた。その多くは蕾のように生命力を宿して、あるいは季節を迎えた果実のように麗しい。ここまでファナティックにテーマを追求し続けた映画監督は日本では小津安二郎がいる。どちらも大好きな作家で、機会が合えばすべての作品を見てみたい。
 エリック・ロメール作品は版権がややこしくDVDレンタルなどで気軽に見ることが出来ないが、幸か不幸か都内なら数年に一度どこかの劇場で特集上映が組まれるので、時期を待って、ゆったりと劇場で堪能することは忙しい現代人にとってかなり贅沢なレジャーといえるのではないだろうか。