この世界の片隅に

web0150
 始まってすぐに昭和初期の広島・呉にタイムトリップしてしまう。
映画「この世界の片隅に」を観ると、空襲の凄まじさ、防空壕の中の様子、市井の人々の日常の食糧事情や暮らしが覗ける。しかしその描写にはおどろおどろしい恐怖感はなく、どちらかと言えば戦争前夜の瀬戸内の風景などは穏やかで美しい印象だ。

 主人公・浦野すずが北条周作のもとに、広島から呉にお嫁に行きます。なんと自分の嫁ぐ先の家の苗字も住所も知らないという。周作の家の人に「不束者(ふつつかもの)ですが、孝行します。」と挨拶していた。時は昭和19年、すずさんは18歳。家(いえ)では働き手と跡取りが欲しいためにお嫁さんを迎えるということが一般的だったのかもしれない。まるでタンポポの綿毛のように知らない場所へやってきて環境に適応しようと精一杯生きている。しかし、次第に戦禍は激しくなり大切なものを失ってゆく。新型爆弾を投下され、とうとう玉音放送を前にすると、”敗戦”という宣告を精神的に受け止めることが出来ず、はじめて怒りに震えるのだった。
 すずさんというキャラクターを通して、時代の波に翻弄されるしかなかった普通の人々の悲しみと一体この戦争は何だったんだという脱力感を想像してみた。

 話のついでだが、今年90歳を迎える僕の祖母はすずさんとほとんど同じ年らしい。祖母もこのスクリーンの向こう側を実際に生きていたのかと思うと俄然この映画が身に染みる。