わたしは、ダニエル・ブレイク

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 映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」の中でフードバンクの様子が出てくる。
 フードバンクとは、前向きに生きる意欲があっても食べ物が手に入らない市民が、賞味期限寸前だったり少し傷が付いているだけで流通にまわせない食品を無償提供してもらえるシステムだそうだ。これは食品の無駄をなくす観点からも飢餓を脱するためにもとてもよいサイクルだと思う。しかし、フードバンクで食料を得ることは何も恥じることではないと分かってはいるけれど、こんなふうにだけはなりたくないと思っている自分もいる。そのような偏見と自分さえ良ければいいという傲慢な姿勢が経済格差を助長しているなら多きな罪だ。

 映画の舞台はイギリスの地方都市ニューカッスル。シングルマザーのケイティは公的援助を受けるためこの街にやって来た。子どもたちとフードバンクの列に並び、あまりの空腹状態に堪えられず咄嗟に陳列されている缶詰を開栓して胃袋に流し込んでしまう。我に返った彼女は惨めさと羞恥心から泣き崩れるが、傍らにいたダニエルから「あなたは何も悪くない。安心しなさい。」となだめられる場面が印象に残っている。辛い話だが、一旦社会的に弱者に陥ってしまうと生活のステージを上げることは困難なのだ。食べ物がなくて餓死するなんてどこか遠い発展途上国の一場面という印象を持っていたが、欧米や日本のような先進国も対岸の火事ではない。格差の広がりから、ちゃんとした身なりで携帯電話まで持っているような人でも餓死者が出るという事件が起こっている。他人事として見ていられない現実だ。

 映画ではさらに、無駄を省くためという名目で全てオンライン化されたイギリスの社会保障が実はほとんど民衆を救えていないどころか、実直な人間ほどバカを見るという現実を暴いてゆく。ケン・ローチ監督は困っている隣人を助けることで人生を変えられるというメッセージを掲げるが、一理あるものの果たしてそれだけで諸悪の根源を退治できるだろうかという疑問も残った。