ハドソン川の奇跡

160928
 ちょっと前に人工知能が囲碁や将棋の世界チャンピオンを倒したり、外科手術の分野にもこれが応用されるなど話題となった。今あるほとんどの職業もやがて人工知能に奪われてしまうだろうとも言われている。もしや僕の憧れの職業「すし職人」も名人の技術を学習したロボットが握るようになるのかもしれないと考えると何だか切ない。いわば第三次産業革命ということで、とりわけこれからの青少年にはどんな職業を選べばいいのか見極めが重要になってくるだろう。

 クリント・イーストウッド監督の新作「ハドソン川の奇跡」を見た。2009年1月15日、ニューヨークでUSエアウェイズの旅客機が離陸後にエンジンを鳥の大群に破損されるトラブルに見舞われた。空港へ引き返すには高度が足りず、間に合わないと判断したサリー機長はハドソン川への水面着陸を決断し、見事に乗客乗員155名の命を守った。この偉業は「ハドソン川の奇跡」としてマスコミに取り上げられ、日本でもニュースになったので覚えている人も多いのではないでしょうか。

 全員が生還できたのだから、これで万事OKだと普通は思う。ところがアメリカの事故調査委員会という機関は、「この機長の判断って本当に正しかったの?不必要に乗客の命を危険に晒したんじゃない?」という疑いを抱き、サリー機長を攻撃し始めた。開かれた公聴会でエンジンが停止して水上着陸するまでの208秒の間に何が起こったのかを検証するのが映画の要点となっている。

 事故調査委員会は208秒間あれば近くの空港にひきかえして安全に着陸することは可能であるとコンピュータではじき出し、シュミレーションで実証しようとする。

 しかし、現場に居合わせ、身一つで乗客の生命を守らなくてはならないサリー機長に言わせれば、それは既に起こった事象を後から辿り直しているだけに過ぎないという。前例のないトラブルが突然降って湧いた時に、様々な要因を加味して、失敗からユニークな解答をひねり出す熟練者のカンは頼もしく包容力があることを映画は提示する。

 人間の未来を人間以外の何者かの判断に委ねることは果たしてどんな結果を生むのだろうか。問題提起は深く突き刺さった。