嫌い好き

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 その昔、母がよく「栄養があるから食べなさい」と言って鍋ものの牡蠣を僕の器によそってくるのが嫌で仕方がなかった。
 食べないと叱られるので、我慢して水と一緒に流し込んだり、後から白菜や肉で追いかけて口の中を誤魔化したりするんだけど。あの匂いと食感が気持ち悪かったのを覚えている。

 それから油っこいのもダメで、揚げ物といえば何を食べてもすぐ「オエッツ」ってなってしまう子どもだったから、「カキフライ」なんて誰が食べるんだろうと思っていた。
 ところがどっこい、どうしたことか。大人になってからある日をさかいに、牡蠣が大好きになってしまった。
 みなさんもそんな経験ありませんか。

 牡蠣料理ならば何でも好きなんだけど、なんとあろうことかカキフライが別格に好きで、陳腐な言い回しだが、あのサクッとしてプリッしてジュワッとする感じがたまらない。磯の香りが強ければ尚更上等だ。
 近頃はお弁当屋さんでもカキフライ弁当ばっかり買ってしまうし、この時季は旨いのでメニューにあれば店でも必ず注文する。もちろん自宅でも作る。牡蠣の摂取量が異様に高いので痛風なんかが心配なんだけど、好きなものを食べていれば、それが一番健康なんだという自分勝手なスタンスを崩さずに生きていきたい。

 要するに何が言いたいのかと言えば、今まで苦手だったものが、突然好きになったりするメカニズムが人生にはあって、そんな経験はほんの少し生き方に奥行きと幅を与えてくれるのではないかということだ。