代々木上原の幸福書房

180215
 代々木上原駅前の「幸福書房」は岩楯幸雄さんが家族経営で営む街の小さな本屋さんだ。
 地元の人には親しみをこめて「幸福さん」と呼ばれている。
 本が好きな僕は10年前にこの街へ越してきたときに自分の街に馴染みの本屋があることがうれしくて、以来仕事帰りや散歩のついでによく立ち寄っている。小さな店舗でもキラリと光る品揃の書棚が素晴らしいのだ。その書棚はただマーケティングを意識して並べただけのものとはぜんぜん違って、限りあるスペースのなかで地元のお客様が好みそうな本・紹介したい本を岩楯さんが一冊づつ仕入れてきて並べた意志を持った棚だ。
 おかしな話だ。本なんてどこで買っても一緒のはず。だけど同じ買うなら信頼できる人から買いたいという心理がある。対価を払って物を買う行為のなかに、商品以外にプラス何かを得ているのだろうか。
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スリー・ビルボード

180222
 アメリカ映画にはいわゆる「ホワイト・トラッシュもの」というジャンルがあるようだ。ニューヨークやロスのように世界に開かれた大都会とは別次元の村社会が合衆国の中にはあって、南部や中西部ののどかな田舎街が舞台だったりして、美しい風景とは逆に、良くも悪くも独特のしきたりに支配されていたりする。
 映画「スリー・ビルボード」はアメリカのミズーリ州エビングという架空の街が舞台。ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)という肝っ玉母さんが主人公だ。半年前に彼女は何者かに娘を酷い仕打ちで殺害された。その悲しみや憎しみは決して癒えることはない。いつまでたっても解決しない事件に街の警察が無力であることに憤り、田舎道沿いの3つの巨大な広告看板を1年契約で買い取ってある作戦に出る。すなわち看板に
 RAPED WHILE DYING(娘はレイプされて殺された)
 AND STILL NO ARRESTS?(なにの犯人はまだ捕まってないの?)
 HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?(何やってるのウィロビー警察署長?)
このようにデカデカと掲げて地元の警察署長を名指しで攻撃して注目を換気しようとしたのだ。
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希望のかなた

171210
 われわれ日本人、いや少なくとも僕は難民問題というとどこか対岸の火事のような気がして親身になって考えた経験がない。
 アキ・カウリスマキの難民三部作の一つ「希望のかなた」を観に渋谷のユーロスペースへ出かけた。
 内戦が激化するシリアから脱出してフィンランドにたどり着いた若者カーリドが物語の主人公。彼の希望は生き別れた妹を探し出してフィンランドで暮らすこと、だが官僚的なシステムに阻まれて難民申請をパスすることもままならない。街を歩くだけで差別主義者から激しい暴行をうけ、次第に疲れ果ててゆく。一方同じ頃、妻と別れ、人生の再出発をしようとする老紳士・ヴィクストロムはカジノで稼いだ金を元手にレストランの経営にチャレンジする。二人は同時進行で物語を歩み、ある日、ヴィクストロムはレスランのゴミ捨て場で寝泊りしていたカーリドと出会い、救いの手を差し伸べる。「レストランで働いてみるか?」「Yes very much.」こんな感じの緩い会話から心の交流が始まった。
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ノクターナル・アニマルズ

171210c
 思春期・青年期を過ごして中年期に差し掛かると、特に女性なんかは何かを失ってきた喪失感が心の中を占領することがあるようだ。
いわゆる「もし、あのとき…」というやつだ。
 トム・フォード監督の新作「ノクターナル・アニマルズ」は、この監督が得意とする強烈なビジュアルで突き刺さるような痛みをともなって、在りし日の回想と現在の悔恨を小説世界がループする作品だ。いや、その映画を見ている側も含めて4つの入れ子構造が反響するすごい作品といってもいい。
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女神の見えざる手

171210b
 2020年オリンピックの開催地が東京に決定した時に、「ロビー活動」の成果ということが盛んに言われた。僕はそのとき初めて「ロビー活動」という言葉を聞いて、ホテルのロビーでこっそり袖の下でもやってそうで、宜しくないイメージを持ったが、何とアメリカにはロビー会社という専門のプロ集団があってオープンに活動しているという。選挙や重要法案の採決のときに暗躍し、世界を動かしているそうだ。団体やマスコミにアプローチして民意をコントロールするのはもちろん、ときには資金調達までこなし最後に勝利の女神を振り向かせる。ロビー活動のプロ、その名もロビイストは現代の花形職業かもしれない。 もっと読む…

インターステラー

171102
 CGを使わず、フィルム撮影にこだわったというSF映画「インターステラー」がおもしろいという評判なので、木場の109シネマズへ出かけた。
 異常気象や環境被害に伴い植物がほぼ絶滅し、厳しい食糧難に晒された近未来の地球。人類が滅亡へのカウントダウンを刻むというSFものにお決まりの始まり方だが、本作は地球を救うことはもう諦めて、ワームホールを通過して別の銀河系で地球人が住める惑星を探して移住を目指すというコンセプトがなかなか潔くて好きだ。
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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

171014
 芸術の道を志す者のなかにはほんの一握りの成功者とそれを裾野で支えているかのように日の目を見なかった者たちがいるのはこの世の常。だが、当人はみな必死にやっているので、本気で目指す以上、才能がなくて成功しないことはやはり惨めでつらい。
 1961年、ニューヨークのグリニッジ・ビレッジが舞台。まだ音楽産業の黎明期、フォークシンガーとしての成功を夢見るもやることなすこと何をやってもうまくいかない男の一週間ほどの日常譚。成り行きで猫を預かるはめになったところからこの物語が動き出し、猫に振り回されるように物語が進んで行く。文無し、宿無しで服も買えない。仕方がないから友達の家を泊まり歩く生活を続けるルーウィン・デービス(オスカー・アイザック)。そんな暮らしを続けていると同業者の女友達ジーンから妊娠を告げられ、中絶費用を要求される。ジーン役のキャリー・マリガンの口から「asshole!」「shit! 」「fuck you!」などの罵声で罵られるも、言い返すことも出来ないルーウィンは気の毒だ。 もっと読む…

戦争のはらわた

171011
 子どもが物心ついたあたりで親から初めて教わるルールといったら「暴力はいけません」ということだろう。
十分わかっているつもりだ。しかし、では戦争はどう説明すればいいのだろう、何かを守るためなら相手を殺してもいいのだろうか。成長するに従って自問するようになっていった。
 有名な「2001年宇宙の旅」の冒頭でも猿人が自らの暴力で意思表示したことをきっかけに(ここでツァラトゥストラが流れる)、人類のテクノロジーが発展していったことを暗示させている。はたし暴力は人間にとって本質的なものなのだろうか?
 話がおわらなくなるので前置きはこの辺にしたい。
 サム・ペキンパーの「戦争のはらわた」(デジタルリマスター)を観に新宿シネマカリテへ出かけた。
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ベイビー・ドライバー

 
170832
音楽のスイッチをオンにすると天才的なドライビングテクニックを発揮する通称ベイビーは、その才能を犯罪組織のボスに買われ強盗の逃がし屋で稼いでいる。ノリの良い音楽に合わせてアクセルを踏みハンドルを切るカーチェイスシーンが評判の「ベイビードライバー」は素直にわかりやすい娯楽映画だ。コンピュータグラフィックスは使用せず、正真正銘のリアルカーアクションに挑戦している。難しいことは考えず、ぜひとも自分の目で、耳で、ハートで感じるべきだろう。 もっと読む…

パターソン

170818
 一般試写会の招待を頂いたので渋谷のユーロライブで「パターソン」を観てきた。

 ニュージャージー州パターソンのバスの運転手で詩を書くことを愛好しているパターソン(主人公は住んでいる街と同じ名前なの)の一週間にわたる日常を描いている。
 妻と愛犬と3人で、滝が見晴らせる公園くらいしか名所がない田舎町に住んでいる。その生活は絵に描いたように平凡でもある。
 でもよく見ると何か素敵に見えてくる。
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smoke-デジタルリマスター

170805
 デジタル・リマスタリングされた「smoke」を名画座のキネカ大森で観てきた。
この作品は90年代のニューヨーク・ブルックリンが舞台ということで、ブルックリンプロムナードを散歩するシーンでは、背後のマンハッタン島にちゃんとツインタワーが写っていて、泣けてくる。 もっと読む…

クレールの膝

170612
 有楽町の角川シネマでお待ちかねのエリック・ロメール監督の特集上映をやっていたので表題作を観てきた。
 物語の舞台はスイス国境に近いフランスのアヌシー湖畔。
 男は市街地の運河にボートを走らせ、川幅が徐々に広がりアルプス山系も望める湖畔の別荘へバカンスにやって来る。
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20センチュリーウーマン

170607
 すこし気恥ずかしい題名も観終わってみるとそのタイトルに込められた想いが染みてくる。
 アネット・ベニング演じるドロシアは大恐慌時代に生まれ、ハンフリー・ボガードとジャズを愛し、四十代で息子を出産。振り返ればその人生は波乱に富んだ20世紀とともにあった。
 三四半世紀におよぶ彼女の人生のなかでも今回カメラは1979年のひと夏に焦点を絞っている。
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天皇について考えてみた

170611
 第一条
 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

 僕は子どもの頃、この条文を読んでまったく理解に苦しんだ。
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マンチェスター・バイ・ザ・シー

170605
 映画が好きになっていろいろ観ていると、アメリカ東部ニューイングランド地方が舞台の作品はセンスがいいものが多い気がしてくる。ウッディ・アレン監督の「インテリア」を初めて観たときに、(すごい偏見なんだけど)アメリカ人というのは陽気なだけじゃないんだ、多かれ少なかれ心に葛藤を抱えているんだなということに気付いたのでした。その映画は完璧に趣味の良いインテリアと東海岸ニューイングランド地方のソフィスティケートされた空気が映画そのものの心情を支配しているようで衝撃を受けて、同じアメリカでもカリフォルニアの明るい感じも好きだけど、ニューイングランドのまた違ったかっこよさにも開眼しました。


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牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件

170512 
1991年に台湾の映画監督エドワード・ヤンが発表した表題作が今春デジタルリマスタリングされたということで、新宿の映画館へ出かけた。
 舞台は60年代の台北郊外。 もっと読む…

わたしは、ダニエル・ブレイク

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 映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」の中でフードバンクの様子が出てくる。
 フードバンクとは、前向きに生きる意欲があっても食べ物が手に入らない市民が、賞味期限寸前だったり少し傷が付いているだけで流通にまわせない食品を無償提供してもらえるシステムだそうだ。これは食品の無駄をなくす観点からも飢餓を脱するためにもとてもよいサイクルだと思う。しかし、フードバンクで食料を得ることは何も恥じることではないと分かってはいるけれど、こんなふうにだけはなりたくないと思っている自分もいる。そのような偏見と自分さえ良ければいいという傲慢な姿勢が経済格差を助長しているなら多きな罪だ。 もっと読む…

ラ・ラ・ランド

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 ミュージカルが嫌いな人は沢山いるが、その理由はピストルで撃たれて急に踊りだしたり、喜びの表現を一斉に皆で歌ったりすることが馬鹿馬鹿しいといったものだろう。
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この世界の片隅に

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 始まってすぐに昭和初期の広島・呉にタイムトリップしてしまう。
映画「この世界の片隅に」を観ると、空襲の凄まじさ、防空壕の中の様子、市井の人々の日常の食糧事情や暮らしが覗ける。しかしその描写にはおどろおどろしい恐怖感はなく、どちらかと言えば戦争前夜の瀬戸内の風景などは穏やかで美しい印象だ。 もっと読む…

厄年

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 帰省の折、諏訪大社にて父が一言「おまえは今年厄年じゃないか」とこぼした。
 こうゆうことは知らなければ厄年じゃなかったのに、知ってしまった以上本年は僕にとって厄年になってしまった。
「あなたは今年災いがありますよ」と天から宣言されたようで何だか怖い。
 あまり考えすぎないようにしようと思う。
ところがそう思えば思うほど気になってくるのが人間というものだ。
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