ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

190927
 クエンティン・タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を見にtohoシネマズ新宿へ出かけた。
映画は1969年のある時期を描いたものになるが、なるほど、この時代は日本でもパンタロンやミニスカートが大ブームだったという。
なんとなく時代が輝いていたように思ってしまうのは「昔はよかった」を連呼したい年寄りの習性かもしれない、
でもやはり、映画を見る限りハリウッド街は今よりも随分浮かれていて、自由っていいなあとしみじみ思ってしまう。
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レネットとミラベル四つの冒険

180709
 エリック・ロメールの「レネットとミラベル四つの冒険」が早稲田松竹でやるというので出かけてみた。

 古い映画なのでスタンダードサイズ(4:3)でフランス語モノラルという視聴環境なんだけど。ちょっと昔のフィルムのザラつき感も良くて、これがすごく落ちつくんだな。

 映画のはじまりで田舎道をこちらに向かって自転車でやって来るミラベル。朴訥なフランスの田舎道に黒いサロペットに真っ赤なカーディガン肩掛けした姿はたまらなくキュートで、ロメールの美的感覚が良く出ている。偶然道で出会った少女レネットに自転車をリペアしてもらったことがきっかけでレネットとミラベルは仲良くなります。
都会的でクールな考え方の少女と、方や田舎育ちで垢抜けないけど真っ直ぐな少女。正反対の二人がフランスの田舎やパリでともに過ごす物語。
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万引き家族

180610
 話題の映画「万引き家族」の初日を見にtohoシネマズ新宿へ行った。

 この映画を見て、なぜか日本の古代人のことが頭に浮かんできた。家族というコミュニティで力を合わせ、狩猟採集をやっていた人たちだ。
 歴史の教科書で学んだとおりなら、縄文時代の終わり頃に日本列島に稲作が伝わると同時にやがて権力や法律もできてきたわけだから、もう古き良き時代の家族はますます端に追いやらて立ち行かなくなってきたのだろう。
 「万引き家族」もまた現代社会のシステムから排除されてしまった。日本列島原住民の成れの果てだといったら極論だろうか。
 僕は万引きなどの軽犯罪に目くじらを立てるよりも、なぜ彼らがそのような状況に追い込まれるのかという根本的な原因を考える方が賢明だろうと思う。しかし何よりも、彼らが子どもに対して滅法優しく、それに対して現代社会システムが子どもを置き去りにしているように描かれていることに考えさせれた。
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フロリダ・プロジェクト

180606
 傑作の呼び声も高い映画「フロリダ・プロジェクト」を見に新宿のバルト9へ出かけた。
フロリダの眩しい空の下で駆け回る子どもたちの躍動に感動させられると思いきや、しばらくして、憂鬱な気持ちが襲ってきた。 もっと読む…

レディ・バード

180602
 脚本家で女優としても活躍するクレタ・ガーウィックが自分自身の高校時代のことを映画化した作品「レディ・バード」を日比谷シャンテに見に行った。

 冒頭こんな言葉から始まる。
 Anybody who talks about California hedonism has never spent a Christmas in Sacramento. 
(カリフォルニアの快楽主義について語る人は誰も皆サクラメントのクリスマスを経験したことがない。) もっと読む…

犬ヶ島

180529
 TOHOシネマズ六本木でウェス・アンダーソン監督のストップモーションアニメ作品「犬ヶ島」を初日に見に出かけた。

 映像・グラフィックが愛くるしくて夢中にさせる。
犬の表情や動きのなんと素晴らしいことだろう。一見しただけでよく研究されていることがわかる。
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レディ・プレイヤー1

180528
 任天堂のファミリーコンピューターが我が家にやってきたのは僕が小学校2年生のときだった。ソフトは初期の「テニス」や「ゴルフ」など非常にシンプルなものから始まり、「ゼビウス」「マリオ」にも夢中になった。そういえば誕生日のプレゼントには「スパルタンX」を買ってもらった(おもしろかった)。ちょうど同時期に映画では「E.T.」とか「グーニーズ」が流行っていて、子どもたちだけでなく大人まで夢を膨らませていた。 もっと読む…

「三度目の殺人」「彼女がその名を知らない鳥たち」

180430
  この二作品を観て、ここに出ている役者というのは芝居で食べているだけあってどの俳優も皆うまいもんだなあとあたりまえの感想を抱いて早稲田松竹の劇場を後にした。

 「三度目」では咲江を演じていた広瀬すずが意外に存在感があって、もしかしたらこの娘が事件の黒幕なのかもしれないと、うつろな表情にゾクッとしてしまった。真実というのは一体どこにあるのだろうか。殺人事件の真相は容疑者、被害者の家族、弁護士の三者の立場によってまったく異なったものになってゆく。最後の結末は不気味な容疑者三隅の狙い通りになったようにも見えるが違うようにも見える。落とし所をはっきりさせたい人にはこの映画は歯がゆいだろう。福山雅治と広瀬すずと役所広司が雪の中で遊ぶシーンが好きだ。
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代々木上原の幸福書房

180215
 代々木上原駅前の「幸福書房」は岩楯幸雄さんが家族経営で営む街の小さな本屋さんだ。
 地元の人には親しみをこめて「幸福さん」と呼ばれている。
 本が好きな僕は10年前にこの街へ越してきたときに自分の街に馴染みの本屋があることがうれしくて、以来仕事帰りや散歩のついでによく立ち寄っている。小さな店舗でもキラリと光る品揃の書棚が素晴らしいのだ。その書棚はただマーケティングを意識して並べただけのものとはぜんぜん違って、限りあるスペースのなかで地元のお客様が好みそうな本・紹介したい本を岩楯さんが一冊づつ仕入れてきて並べた意志を持った棚だ。
 おかしな話だ。本なんてどこで買っても一緒のはず。だけど同じ買うなら信頼できる人から買いたいという心理がある。対価を払って物を買う行為のなかに、商品以外にプラス何かを得ているのだろうか。
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スリー・ビルボード

180222
 アメリカ映画にはいわゆる「ホワイト・トラッシュもの」というジャンルがあるようだ。ニューヨークやロスのように世界に開かれた大都会とは別次元の村社会が合衆国の中にはあって、南部や中西部ののどかな田舎街が舞台だったりして、美しい風景とは逆に、良くも悪くも独特のしきたりに支配されていたりする。
 映画「スリー・ビルボード」はアメリカのミズーリ州エビングという架空の街が舞台。ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)という肝っ玉母さんが主人公だ。半年前に彼女は何者かに娘を酷い仕打ちで殺害された。その悲しみや憎しみは決して癒えることはない。いつまでたっても解決しない事件に街の警察が無力であることに憤り、田舎道沿いの3つの巨大な広告看板を1年契約で買い取ってある作戦に出る。すなわち看板に
 RAPED WHILE DYING(娘はレイプされて殺された)
 AND STILL NO ARRESTS?(なにの犯人はまだ捕まってないの?)
 HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?(何やってるのウィロビー警察署長?)
このようにデカデカと掲げて地元の警察署長を名指しで攻撃して注目を換気しようとしたのだ。
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希望のかなた

171210
 われわれ日本人、いや少なくとも僕は難民問題というとどこか対岸の火事のような気がして親身になって考えた経験がない。
 アキ・カウリスマキの難民三部作の一つ「希望のかなた」を観に渋谷のユーロスペースへ出かけた。
 内戦が激化するシリアから脱出してフィンランドにたどり着いた若者カーリドが物語の主人公。彼の希望は生き別れた妹を探し出してフィンランドで暮らすこと、だが官僚的なシステムに阻まれて難民申請をパスすることもままならない。街を歩くだけで差別主義者から激しい暴行をうけ、次第に疲れ果ててゆく。一方同じ頃、妻と別れ、人生の再出発をしようとする老紳士・ヴィクストロムはカジノで稼いだ金を元手にレストランの経営にチャレンジする。二人は同時進行で物語を歩み、ある日、ヴィクストロムはレスランのゴミ捨て場で寝泊りしていたカーリドと出会い、救いの手を差し伸べる。「レストランで働いてみるか?」「Yes very much.」こんな感じの緩い会話から心の交流が始まった。
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ノクターナル・アニマルズ

171210c
 思春期・青年期を過ごして中年期に差し掛かると、特に女性なんかは何かを失ってきた喪失感が心の中を占領することがあるようだ。
いわゆる「もし、あのとき…」というやつだ。
 トム・フォード監督の新作「ノクターナル・アニマルズ」は、この監督が得意とする強烈なビジュアルで突き刺さるような痛みをともなって、在りし日の回想と現在の悔恨を小説世界がループする作品だ。いや、その映画を見ている側も含めて4つの入れ子構造が反響するすごい作品といってもいい。
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女神の見えざる手

171210b
 2020年オリンピックの開催地が東京に決定した時に、「ロビー活動」の成果ということが盛んに言われた。僕はそのとき初めて「ロビー活動」という言葉を聞いて、ホテルのロビーでこっそり袖の下でもやってそうで、宜しくないイメージを持ったが、何とアメリカにはロビー会社という専門のプロ集団があってオープンに活動しているという。選挙や重要法案の採決のときに暗躍し、世界を動かしているそうだ。団体やマスコミにアプローチして民意をコントロールするのはもちろん、ときには資金調達までこなし最後に勝利の女神を振り向かせる。ロビー活動のプロ、その名もロビイストは現代の花形職業かもしれない。 もっと読む…

インターステラー

171102
 CGを使わず、フィルム撮影にこだわったというSF映画「インターステラー」がおもしろいという評判なので、木場の109シネマズへ出かけた。
 異常気象や環境被害に伴い植物がほぼ絶滅し、厳しい食糧難に晒された近未来の地球。人類が滅亡へのカウントダウンを刻むというSFものにお決まりの始まり方だが、本作は地球を救うことはもう諦めて、ワームホールを通過して別の銀河系で地球人が住める惑星を探して移住を目指すというコンセプトがなかなか潔くて好きだ。
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インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

171014
 芸術の道を志す者のなかにはほんの一握りの成功者とそれを裾野で支えているかのように日の目を見なかった者たちがいるのはこの世の常。だが、当人はみな必死にやっているので、本気で目指す以上、才能がなくて成功しないことはやはり惨めでつらい。
 1961年、ニューヨークのグリニッジ・ビレッジが舞台。まだ音楽産業の黎明期、フォークシンガーとしての成功を夢見るもやることなすこと何をやってもうまくいかない男の一週間ほどの日常譚。成り行きで猫を預かるはめになったところからこの物語が動き出し、猫に振り回されるように物語が進んで行く。文無し、宿無しで服も買えない。仕方がないから友達の家を泊まり歩く生活を続けるルーウィン・デービス(オスカー・アイザック)。そんな暮らしを続けていると同業者の女友達ジーンから妊娠を告げられ、中絶費用を要求される。ジーン役のキャリー・マリガンの口から「asshole!」「shit! 」「fuck you!」などの罵声で罵られるも、言い返すことも出来ないルーウィンは気の毒だ。 もっと読む…

戦争のはらわた

171011
 子どもが物心ついたあたりで親から初めて教わるルールといったら「暴力はいけません」ということだろう。
十分わかっているつもりだ。しかし、では戦争はどう説明すればいいのだろう、何かを守るためなら相手を殺してもいいのだろうか。成長するに従って自問するようになっていった。
 有名な「2001年宇宙の旅」の冒頭でも猿人が自らの暴力で意思表示したことをきっかけに(ここでツァラトゥストラが流れる)、人類のテクノロジーが発展していったことを暗示させている。はたし暴力は人間にとって本質的なものなのだろうか?
 話がおわらなくなるので前置きはこの辺にしたい。
 サム・ペキンパーの「戦争のはらわた」(デジタルリマスター)を観に新宿シネマカリテへ出かけた。
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ベイビー・ドライバー

 
170832
音楽のスイッチをオンにすると天才的なドライビングテクニックを発揮する通称ベイビーは、その才能を犯罪組織のボスに買われ強盗の逃がし屋で稼いでいる。ノリの良い音楽に合わせてアクセルを踏みハンドルを切るカーチェイスシーンが評判の「ベイビードライバー」は素直にわかりやすい娯楽映画だ。コンピュータグラフィックスは使用せず、正真正銘のリアルカーアクションに挑戦している。難しいことは考えず、ぜひとも自分の目で、耳で、ハートで感じるべきだろう。 もっと読む…

パターソン

170818
 一般試写会の招待を頂いたので渋谷のユーロライブで「パターソン」を観てきた。

 ニュージャージー州パターソンのバスの運転手で詩を書くことを愛好しているパターソン(主人公は住んでいる街と同じ名前なの)の一週間にわたる日常を描いている。
 妻と愛犬と3人で、滝が見晴らせる公園くらいしか名所がない田舎町に住んでいる。その生活は絵に描いたように平凡でもある。
 でもよく見ると何か素敵に見えてくる。
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smoke-デジタルリマスター

170805
 デジタル・リマスタリングされた「smoke」を名画座のキネカ大森で観てきた。
この作品は90年代のニューヨーク・ブルックリンが舞台ということで、ブルックリンプロムナードを散歩するシーンでは、背後のマンハッタン島にちゃんとツインタワーが写っていて、泣けてくる。 もっと読む…

クレールの膝

170612
 有楽町の角川シネマでお待ちかねのエリック・ロメール監督の特集上映をやっていたので表題作を観てきた。
 物語の舞台はスイス国境に近いフランスのアヌシー湖畔。
 男は市街地の運河にボートを走らせ、川幅が徐々に広がりアルプス山系も望める湖畔の別荘へバカンスにやって来る。
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