女神の見えざる手

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 2020年オリンピックの開催地が東京に決定した時に、「ロビー活動」の成果ということが盛んに言われた。僕はそのとき初めて「ロビー活動」という言葉を聞いて、ホテルのロビーでこっそり袖の下でもやってそうで、宜しくないイメージを持ったが、何とアメリカにはロビー会社という専門のプロ集団があってオープンに活動しているという。選挙や重要法案の採決のときに暗躍し、世界を動かしているそうだ。団体やマスコミにアプローチして民意をコントロールするのはもちろん、ときには資金調達までこなし最後に勝利の女神を振り向かせる。ロビー活動のプロ、その名もロビイストは現代の花形職業かもしれない。
 映画「女神の見えざる手」は敏腕ロビイストのエリザベス・スローン(ジェシカ・チャスティン)が、銃規制法の可決を目指して、圧倒的な基盤と資金力を持つ銃利権団体と対決する社会派サスペンスドラマだ。
 「絶対に相手よりも先読みして行動する。相手が手の内を出しきった後でこちらが勝負を仕掛ける。」と自身のビジネス哲学を語るところからこの映画は始まる。徹頭徹尾その信条を体現する主人公はスパイさながらの諜報行為もお手のもの、ときには勝つためには味方さえも駒として利用するため、反発を招くこともある。清廉潔白ではないがかといって冷酷無比でもないニュータイプのヒロインは観ていて楽しい。しかしながら、アメリカの銃所持擁護派を敵に回してしまったらちょっと厄介だ。実際にこの前もラスベガスでの銃乱射事件で60人の市民が亡くなったばかりだが、こんな殺人行為を頻繁に起こしているにもかかわらず米国政府は一向に銃規制に乗り出せない。それだけアメリカと銃は切っても切れない関係、間に割って入ろうものなら潰されるのがオチなので、それ見たことかと、エリザベス・スローンも当局から嫌疑をむけられ公聴会に吊るし上げられる。ここで虚偽証言をすれば懲役5年の刑に課せられることは百も承知だが、彼女は「先読み」し「勝つ」ために温め続けていたある秘策を講じる。ここでの最終兵器を出すタイミングの鮮やかさと、自らを犠牲にしてまで巨像に矢を放った勇気に痺れた。。ついでにこの映画での彼女のファッションも素晴らしい。サンローランの黒いスーツやピンヒール、真っ赤なルージュが似合っていて、普通だったら嫌味にしかならないこの手のファッションだが戦う女の戦闘服さながらに格好いい。きびきび立ち回り、てきぱき発言する彼女を見たさにもう一度劇場に足を運んでしまいそうだ。