日々の光

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 何かにつけ、いまの時代は良くないとか、金が無いとか税金取りすぎだとか、ついつい文句が出てしまう今日このごろ。でもあの時代と比べたら今はずっといい時代なのだよと自分に言い聞かせている。すくなくとも自分の人生を国家の方針によって滅茶苦茶にされてしまうということは今のところはなさそうだ。

 この秋読んだ小説「日々の光」は、愛とは戦争とは宗教とは何か、あらゆる問について「物語」という時空を超えるタイムマシーンで僕を戦争前夜のシアトル、戦中のミニドカ日系人収容所や日本の長崎、戦後の東京やシアトルに導き、そして読書体験を通じて「考える」という豊かな時間を提供してくれた。
 単に面白い物語としても破格の傑作。とりわけ聡明で心優しい主人公のビリーと光子の行く末をハラハラしながら「この先どうなちゃうんだろう。次が読みたい。もっと知りたい」とミステリー小説のような展開が興奮して一気に読んでしまった。


 ある晴れ渡った静かな午前(それはまさに今日この日のように普段と何一つ変わらない一日だったのかもしれない)。そこに突如青白い閃光と爆風が一瞬にして街を死の風景に変えてしまったことを思う。
 最終章で著者のジェイ・ルービンは、あの日あの時長崎で何が起こったのか、そしてその後ぼくらはそれをどのように受け止めればよいのか、渾身の力で本質に迫っている。キリスト教に庇護されたアメリカの正義および「長崎の鐘」の作者である永井隆の思想を痛烈に批判し、「では神とは何なのか」という問いを投げかけてくる。フィクションというスタイルだからこそ伝わるライブ感を享受し、ただただ圧倒されることしか出来ない。

 ここで問われていることに、今の僕にはすべてを理解し答えを出すことはできないが、最後の最後の頁に用意されたそれでも人生は生きるに値するという希望の光に、怒りをなだめられ、ゆっくりと息を吐きながら本を閉じた。