レヴェナント:蘇りし者

160604
 米アカデミー賞2016年の本丸ともいえる作品「レヴェナント:蘇りし者」を観た。

 この作品はレオナルド・ディカプリオがアカデミー主演男優賞を受賞したこともあり、その凄まじい演技が話題となっている。でもディカプリオさん、持ち前のキャラクターがそうさせるのか、僕はどうも役者としては入り込めないところがある。この人が一生懸命の演技をすればするほど何だか可笑しくなってしまうのだ。
 今作でも繰り返し予告で流された熊に襲われるシーン。確かに迫力は物凄いけどあそこまで執拗に巨大熊に襲われても死なないところが逆に(不謹慎だが)笑ってしまうし。荒野で命からがらバイソンの生肉にかぶり付くディカプリオ(ベジタリアン)なんて吐きながらも必死に食おうとしているあたり、演技じゃねぇだろう!と思わず突っ込まずには入られない。
 いかん。作品に散々ケチをつけてしまった。ディカプリオの多少無理があるキャスティングとストーリー性の曖昧さが足を引っ張っているものの、撮影に関しては唯一無二で素晴らしいものだった。これまで述べた作品の欠点は無かったことにしよう。
 とりわけライティングが素晴らしく、なんと太陽光と焚き火の炎のみで、それがビジュアルに絵画的な威厳のようなものを与えている。凍てつくような大自然は明け方のほんのわずかな時間だけをねらって撮られているので暗い中でも山の稜線がくっきり浮かび上がっており、これは他の映画ではなかなかお目にかかれない。最先端の撮影テクノロジーに逆行するかのようなアプローチでで一つ一つ丁寧に手作業で撮られているのだ。衣装や小道具も本当にリアルで、当時のインディアンやハンターの服や道具に少年心をくすぐられる上に、それだけが無理に目立つことなく大スクリーンの一要素として溶け込んでいる。実ににくい。
 他にもいろいろ褒めたいところがあるんだけど、極めつけは最後の雪中の決闘シーン。白い雪の中を黒い2人の影がぶつかり合う様子などまるで抽象表現主義の絵画とかダイナミックな水墨画を見ているようで非常に印象に残っている。こうゆうカメラの扱いというのは、その方面に詳しくないのでよくわからないが相当な技術とセンスが必要なんじゃないだろうか。撮影だけで2時間半をたるまないように引っ張っているような映画だ。
 そうゆうわけで、レヴェナントを観るなら背景への予備知識も哲学的考察もまったく必要ないので、とにかく劇場の大きなスクリーンで見ることをお勧めします。